判例から見る相続法

遺産分割までの不動産賃料

 Aさんは賃貸不動産を遺して平成8年10月13日に亡くなりました。相続人は妻と子4人の計5名です。5人は不動産の賃貸料や管理費等を管理する口座を開設して、この不動産を管理してきました。

 平成12年12月3日に遺産分割が確定したのですが、本件口座の残金の清算方法について紛争が生じます。

 妻は、亡くなった日に遡り、遺産分割の割合に従って分割すべきと主張し、子4人は、遺産分割が確定した日から遺産分割の割合に従って分割すべきだと主張しました。

 例えば、亡くなった日から分割確定までの不動産賃料から管理費等の経費を差し引いた金額が1,000万円としましょう。遺産分割によりその不動産を妻が取得することになった場合、1,000万円は妻のものだと主張したのが妻、妻が500万円(1,000万円x相続分1/2)で子が500万円だと主張したのが子です。

裁判所の判断

 遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時に遡ってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。

 したがって、相続開始から本件遺産分割決定が確定するまでの間に本件各不動産から生じた賃料債権は、B及びAらがその相続分に応じて分割単独債権として取得したものであり、本件口座の残金は、これを前提として清算されるべきである。

 そうすると、上記と異なる見解に立って本件口座の残金の分配額を算定し、Bが本件保管金を取得すべきであると判断して、Bの請求を認容すべきものとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。

 不動産賃料は、遺産分割が確定するまでは相続分に応じて分けなければなりません。そのため、相続人が5人ならば、5人がそれぞれの相続分に応じて申告しなければなりません。

 ところが、争いがあれば、確定申告に必要な収入金額や経費がわからないこともあります。申告不能なことが多々あります。

 管理支配している人に申告義務を課し、遺産分割が確定したら申告を訂正するのが現実的と思いますし、民法も改正の必要があると思います。果実(不動産賃料)にも遺産分割の効力を及ぼすべきだと思います。           

みなさんはどう思われますか?

最高裁平成17年9月8日判決

 

遺贈の効力

 Aは、相続財産であるYに対する貸付金を、家督相続人である長男Xに1/20を、次男他7名に合計19/20を遺贈する旨書き残して亡くなりました。そこで、遺言執行者であるCがYに貸付金の返却を求めましたが、Yは応じなかったので、Xが貸金請求の訴を提起しました。

Xの主張

Aの相続財産は死亡により家督相続人Xに移転して、次男他7名はXに対して貸付金19/20の弁済を求めることができる。

Yの主張

Aの相続財産は死亡と同時にXに1/20、次男他7名に19/20移転する。

 裁判所はYの主張を認め、Xには貸付金の取り立てをする権限がないとし、Xが敗訴しています。

 遺贈は相続開始と同時に所有権移転の効力(物権的効力)が生じます。

 もしも、遺言書(特定遺贈)があれば、遺言書に従って財産は分割されてしまいます。その後、受遺者は、いつでも特定遺贈を放棄することができるので、遺言とは異なる遺産分割することが可能です。

 相続税申告を遺言を基に作成し、もしも後日遺産分割することになり相続税額が変われば、修正申告か更正の請求により相続税額を変更することになります。

大審院大正5年11月8日判決

 

相続債務の承継者

 Aさんは資産約4億3千万円負債約4億2千万円で、2人の相続人(子)がおりました。平成15年に一方の子に全ての財産を相続させる旨の遺言書を遺し亡くなります。

 4億2千万円の債権者どうしますか?

 2人の相続人に請求してよいことになっています。(この場合だと各々1/2)

 一旦支払った2億1千万円はどうすれば取り戻せますか?

 遺言により財産を相続したもう一方の相続人に請求できます。

 遺留分はどうなりますか?

 相続分は1/2、遺留分割割合は1/2です。約4億3千万円から約4億2千万円を差し引いた約1千万円の1/4遺留分になります。

 約2億1千万円の債務を立て替えた上、貰えるのは数百万円。踏んだり蹴ったりですよね。もっとも債権者を守るためには仕方ないのかもしれません。

最高裁平成21年3月24日判決

 

非嫡出子

 民法では相続分が定められていて、この相続分によって相続税額が計算されています。

 例えば妻と子二人で三人の相続人がいると妻の相続分は1/2、子二人の相続分も1/2です。

 多くの場合、子は結婚している男女間の子(嫡出子)ですので二人の子の相続分は各々(1/2x1/2)=1/4となります。 

 稀に、結婚していない男女間の子(非嫡出子)がいる場合もあり、そんな場合の相続分は嫡出子の1/2と定められています。一人が嫡出子で一人が非嫡出子だとすると嫡出子の相続分は(1/2x2/3)=2/6で非嫡出子の相続分は(1/2x1/3)=1/6となります。

 この民法の規定は2013年9月4日、最高裁の違憲判決で覆されました。嫡出子と非嫡出子の相続分は同じになりました。

 ちょっと面白いのが「先例として解決済みの事案にも効果が及ぶとすれば、著しく法的安定性を害することになる」とし、審判や分割協議などで決着した事案には、影響を及ぼさないとしたことでしょう。

 そんな訳で9月4日以前に提出した申告書は従来どおり、非嫡出子の相続分は嫡出子の1/2。この規定がないものとして計算した相続税額が低くても更正の請求ができないのだそうです。


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