判例から見る相続登記

相続させる遺言は遺産の分割方法を定めた遺言

裁判所の判断

特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り、当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきである。

相続させると書かれていれば、遺贈ではなく相続となります。遺贈ではないため相続人が単独で登記することが可能になります。

平成3年4月19日最高裁判決

遺言執行者がいる場合の相続人の遺産処分

事件の概要

Aさんは昭和45年10月21日付の公正証書により、所有する土地・建物を相続人7人のうちx1、  x2の二人に遺贈し、遺言執行者をCとする旨遺言して、昭和52年7月16日に亡くなりました。

Aの相続人であるBは、権利がないにもかかわらず相続放棄申述書を偽造するなどして、その土地・建物を自分名義にした上、Yのために根抵当権を設定した。更にYはこの土地・建物の競売を開始した。これに対してx1、x2は根抵当権の設定は無効であり競売の排除を求めたのがこの訴えです。

裁判所の判断

「遺言者の所有に属する特定の不動産が遺贈された場合には、目的不動産の所有権は遺言者の死亡により遺言がその効力を生ずるのと同時に受遺者に移転するのであるから、受遺者は、遺言執行者がある場合でも、所有権に基づく妨害排除として、右不動産について相続人又は第三者のためになされた無効な登記の抹消登記手続きを求めることができるものと解するのが相当である。」

遺言執行者が選任されていれば遺贈でも登記なくして第三者に対抗できる(誰かに登記されても取り戻せる)ことを意味します。

昭和62年4月23日最高裁判決

遺産分割と登記

事実の概要

亡Aの遺産である不動産は、遺産分割の調停により11名の相続人の内のXを含む7名で各1/7を相続することとなった。ところが、登記をしないでいたところXの債権者が、Xに代位して、Xの法定相続分1/3を相続登記し、同時に他の相続人の相続分も保存登記した。そのため遺産分割により不動産を取得したX以外の6名がX及び遺産分割により不動産を取得しなかった相続人4名を相手取り更正登記手続請求の訴を提起した。

裁判所の判断

「遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものではあるが、第三者に対する関係においては、相続人が相続によりいったん取得した権利につき分割時に新たな変更を生じるものと実質上異ならないものであるから、不動産に対する相続人の共有持分の遺産分割による得喪変更については、民法177条の適用があり、分割により相続分と異なる権利を取得した相続人は、その旨の登記を経なければ、分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対して、自己の権利の取得を対抗することができないものと解するのが相当である。」

遺産分割により法定相続分を超える財産を取得した相続人は登記しないと第三者に対抗できないことを意味します。

昭和46年1月26日最高裁判決

遺贈と登記

甲は、その所有する不動産を乙らに遺贈する旨遺言して昭和33年6月17日に亡くなりました。

ところが、甲の長男丙(相続分1/4)の債権者であるYは丙の代わりにその不動産の1/4を相続登記して競売の申立てをし、7月10日には強制競売開始決定がされました。その後の7月28日に遺言執行人に選任されたXがYに対して提起した訴がこの裁判です。

裁判所の判断

遺贈の場合、登記しなければ第三者に対抗できないとしています。

この事例は初めは遺言執行人がいませんでした。相続登記された後で選任されています。そのため、せっかく遺贈を受けたのに第三者に競売されてしまいました。相続の場合は登記しなくても第三者に対抗できるのですが、遺贈(遺言執行人がいない)の場合は、登記しないと第三者に対抗できません。

昭和39年3月6日最高裁判決

共同相続と登記

Aさんは昭和27年5月11日に不動産を遺して亡くなりました。相続人は妻Bと三人の娘C、D、乙で、法定相続分による共同相続をしました。ところが、乙の夫が印鑑証明等を偽造して、その不動産を乙が単独相続したように装い所有権移転登記をし、更に金融を受ける担保として売買予約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記を丙にしました。

第一審

B、C、D(甲ら)の主張を認め、仮登記の全部抹消を認めました。

第二審

丙の主張を一部認め、乙の相続分については仮登記の抹消を認めませんでした。

最高裁

第二審に同じです。

丙さんは、担保を取ってお金を貸したのですが、担保の大部分は、甲らに取り戻されてしまいました。

甲さんらは、相続財産に担保をつけられていまいました。

どちらも気の毒ですが致し方ありません。

この判決以前から相続により取得した財産は登記していなくても第三者(この裁判だと丙)に対抗(自分のものだと主張できること)できるとする判決が積み重ねられてきました。裁判所は「相続財産に属する不動産につき単独所有権移転の登記をした共同相続人中の乙ならびに乙から単独所有権移転の登記を受けた丙に対し、他の共同相続人甲らは自己の持分を登記なくして対抗しうるものと解すべきである」と判示しました。

登記していない相続財産が誰かに勝手に売られてしまっても取り戻せることを意味します。

昭和38年2月22日最高裁判決

 


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